[読書]仏教 仏教は科学なのか エヴァン・トンプソン著 藤田一照、下西風澄監訳、護山真也訳 解析に基づく挑発的問い
本書は近年稀にみるポレミック(論争的)で挑発的な内容だが、議論の中身は懇切丁寧で説得的だ。問いの立て方と議論の筋道も透徹している。「仏教モダニズムや仏教例外主義」の論破が目的ではなく、問題の全体像をもっと俯瞰的で多角的な文脈に置き直すと、自分たちが陥っている偏りがよく見えてきて、もっと豊かな仏教や宗教についての洞察へと開かれる、と著者は提言する。
第1の問題点は、仏教は宗教ではなく「科学」だという仏教モダニズムの誤り。「仏教は宗教以上のものである。それは心の科学である」と主張してきたダライ・ラマたちの言説の不正確さを容赦なく批判する。さらに「仏教例外主義者は、仏教教義と瞑想実践に含まれる記述的な側面と規範的な側面とを混同」しているので同意できないと著者。例えば「涅槃」とか「覚り」という概念は「科学的概念」ではなく「救済論的な概念」で、「その妥当性を測定によって確立できるような心理学的な構築物」でも「操作可能な対象」でもないと指摘する。
マインドフルネス瞑想を巡っては、脳画像データなどを用いて解析したり、一定のエビデンスに基づく効能があるかのように主張したりすることの根本的な誤りを、現象学や認知科学に携わってきた自分の経験と総括と反省を踏まえて厳しく批判。そして「仏教の科学」と「仏教の宗教」を「峻別」しつつ「科学者と対話」してきたダライ・ラマの「中心的な戦略」の矛盾と問題点を的確にえぐり出す。このあたり、テレビ番組「白熱教室」の仏教版を見るようで面白く刺激的だ。
そうした緻密で明晰な指摘を重ねた上で「仏教と科学との真の対話」の実現には、無我などの「仏教哲学」と科学との徹底したコスモポリタニズム的な討議が必要で、自分は「仏教徒ではなく仏教の善き友」と結論する。
本書は仏教やマインドフルネスや宗教に関心のある者にとって避けて通れない問いを突き付ける。(鎌田東二・宗教学者)
沖縄タイムス 2025年1月25日
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1514006
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